風の森(佐賀・奥武雄温泉)
佐賀県にある全室離れタイプの宿。いたるところにオーナーの趣味であるデザイナーズチェアの名作が無造作に置かれ、非常にスタイリッシュな雰囲気を醸し出している。さらに、各部屋には様々な趣向を凝らしたとても贅沢な露天風呂が配され、お籠もり系デザイナーズ旅館の代表格の1軒になりつつある宿。そのコストパフォーマンスの高さも魅力的。
この宿は2005年8月にオープンした、新しい旅館です。大切な人との二人きりで過ごす時間を大切にする「二人のための居心地の良い宿」というコンセプトを全面に推しており、各部屋も基本的に2人利用のみ受け付けています。ただ、複数の部屋を利用すれば結果的には3人以上での利用も可能ではあるのですが・・・。なお、中学生以下の子供の利用も出来ません。
さて、長崎自動車道の嬉野ICで降りると、そこから僅かに数分の所に風の森はあります。インターからのアクセスは非常に良いのですが、幹線道路から外れた裏道沿いにあるため、やや判りづらいかも知れません。住宅と山林に囲まれた立地ですが、山を整地した上、敷地内には多くの木々を植栽しているので、一歩敷地内に入ってしまえばそんなことは忘れてしまいます。
駐車場に車を停めると、まずは母屋に向かいます。入ってすぐに、非常にシックなレセプトカウンターが目に入ってきました。カウンター奥にはBang&Olufsenのプレーヤーが見えます。従業員の方は女性が多く、皆若い方のようです。手続きの最中周りを見回してみると、母屋はこのレセプトカウンターを中心に左手にはパブリックスペースが、右手にはお土産物コーナーがあるようです。
パブリックスペースには、様々な椅子とテーブルが置いてあり、また、コーヒーサーバーや書籍、DVD等があります。コーヒーはセルフサービスですが、こちらで自由に頂けるようです。勿論、書籍類も自由に部屋に持ち出して、鑑賞出来るとの事です。
なお、上記の通り「二人で過ごす時間」をコンセプトにしているため、共用施設はこのロビーしかありません。共用風呂や娯楽施設もありません。
さて、事務的な手続きを終えると、従業員の方が部屋までカート(ゴルフ場にあるアレです)で送ってくれます。この宿は全7部屋全てが離れ・露天風呂付で、前述の通り山を開拓して作った宿のため、敷地全体に非常に高低差があります。そのため、この最も低い所に位置する母屋から各棟への往来には、従業員の方がカートで送迎してくれるのです。
カートに乗って急勾配が続く敷地を暫く進むと、本日お世話になる部屋「風」に到着しました。すぐ隣には別の棟がありますが、それを考慮に入れた窓や露天風呂の配置等のため、一歩建物に入ってしまえば十分なプライバシーとプライベート感が確保されます。
玄関のドアを開けると、まずは正面に大きな窓が飛び込んできました。その向こうには部屋露天が見えます。窓の手前にはデザイナーズチェアが配されています。また、玄関入ってすぐ脇には、柳宗理のバタフライスツールもあります。
玄関ホールを抜けると、すぐに6畳ほどの和室があります。洗面所とは別に、和室にも簡単な流しがあります。
そして和室をさらに抜けると、寝室があります。この宿の売りの一つにキングサイズのベッドということが挙げられます。全7棟のうち、キングサイズベッドの部屋が4部屋、それ以外の3部屋はセミダブルが各部屋2台ずつ配されており、各部屋2人利用ということを考えると、いずれの部屋でも睡眠時のゆとりはかなりのものです。
寝室に入ると、備え付けのコンポから軽快なボサノヴァが流れてきます。チェックインの事前にセットされているようです。また、それ以外にも部屋にはCDが2枚程用意されています。そして寝室の壁面には、32インチ程の大きさの液晶テレビ(アクオス)が掛けられています。前述の和室にもテレビはありましたが、あちらは17インチ程のものです。
寝室の壁一面には非常に大きな窓があり、その向こうには15〜20畳程の広大なウッドデッキが広がります。そのウッドデッキの中央には部屋露天があります。ウッドデッキからの周囲には、木々が広がります。恐らく植樹されたものなのでしょうが、建物、特にウッドデッキを囲むように計画的に多数の木々が配されており、露天風呂のプライバシーは十分に確保されており、開放感一杯の入浴が楽しめそうです。
そのウッドデッキの反対側にも扉があり、そちらが内風呂となっています。内風呂を抜けるとトイレと洗面台が配されています。ちなみに、トイレと洗面台の間には仕切りとなる扉などは全くありません。
なお、基本的にこの宿はかなり内外装ともにスタイリッシュで、使っている備品や小物も非常にセンスのあるものなのですが、個人的にはこの洗面台が特に気に入りました。スクエアデザインに加え、排水溝のデザインが非常に個性的でした。
一通り物色を終えると、早速部屋露天に入ってみることに。湯温はやや高めですが、加水用のバルブが浴槽すぐ横にあり、面倒ではありません。なお、このバルブはウッドデッキの下に隠れていますが、デッキの一部を外すことで利用できます。
お湯の中に足を突っ込み、踏み出そうとした時、足を滑らせて転んでしまいそうになりました。そうなんです、よくよく触ってみると、浴槽内の底も側面もかなりぬるぬるなのです。別にこれは清掃が行き届いていないわけではなく、これこそがここの泉質の特徴なのです。とにかくお湯がぬるぬるで、肌がすべすべになるのが身をもって実感できます。その様な泉質のため、浴槽の内壁もぬるぬるになるのです。
眼前には森林が広がり、また高さもあるため圧迫感も全くなく、上を見やると天高い夏空・・・この開放感は病みつきになります。ちょっとのぼせ気味になったら、ウッドデッキにあるデッキチェア(これが意外と座り心地抜群!)で休み、部屋の冷蔵庫からビールを持ち出し喉を潤し、再び温泉に浸かる・・・しかもこの宿のチェックアウトは翌12時なので、こんな贅沢が1泊の滞在中に存分に味わえます。
ただ、冒頭で述べた通り高速道路のすぐ近くに立地する宿のため、高速を行きかう車の走行音が耳に入ってきます。こればかりは立地を考えると仕方ないのでしょうが、ちょっと残念ではありました。また、ウッドデッキの端まで行くと、母屋から部屋に行く際に通ってきた敷地内の急勾配な道路が木々の間から見えます。まあ、デッキの端まで行かなければいいだけなのですが・・・。また、循環・加温の温泉なのですが、時間が経てば経つほど、お湯の表面にかなりの垢のような汚れが浮いてくるのが目に見えて判りました。翌日のチェックアウト前などは、浮遊物が余りに多く、入浴を断念したほどです。循環の際に、うまく濾過できていないようです。露天風呂の泉質と開放感が非常に良いだけに、これは非常に残念でした。
さて、そろそろ夕食の時間のようです。予め時間を指定しておくと、食事時になると従業員の方が例のカートで迎えに来てくれます。
夕食後には、母屋のロビーでコーヒーを頂くことにしました。基本的にセルフサービスではありますが、従業員の方が余裕のある時は、コーヒーを持ってきてくれるようです。こういう臨機応変な対応は非常に嬉しいし、好感が持てます。
こちらのロビーには、様々なデザインの椅子が置いてあります。なんでも、オーナーの方の趣味のようです。特にハンス・J・ウェグナーの作品が多いようです。書籍もインテリア関係の本が多いようです。因みに、DVDの方は、名作系の映画から新作の娯楽系の映画まで幅広くそろえてありました。
夕食からの帰りも、従業員の方にカートで送っていただき、ほろ酔いのままキングサイズベッドで眠りについたのでありました。
翌日のチェックアウトは12時ということで、翌日ものんびりと過ごすことが出来ました。
とにかく、全体的にハイセンスなデザインの小物で統一されており、また母屋から離れた離れは開放感がありながらも計画的に植樹された木々のおかげでプライバシーも十分に確保されており、「二人のため」というコンセプトは見事に体現できていると感じました。
また、そのコンセプトの具現化のために、例えば「中学生未満の利用不可」など、徹底して縛りを設けるなど、それだけ宿側が努力をされているということでしょう。
なお、あえて気づいた点を挙げるとすれば、まずは前述した通り、部屋露天の循環性能に問題有りってことでしょうか。これは、この宿の最大の売りの一つが部屋露天であることを考えると、かなり致命的な問題ではないでしょうか?また、部屋のエアコンが壊れており、冷房をつけると水が漏れてきました。それも尋常でない量の・・・。こいつには一晩中悩まされました。
と、幾つか気になった点はありましたが、そんなものは些細なこと。この建物と雰囲気、ホスピタリティ、料理・・・全てが非常に高いレベルにあるにも関わらず、平日で22000円とは素晴らしいの一言に尽きます。まあ、元来宿の値段は東高西低の傾向にあるようですが、例えば伊豆でこのハードとソフトを備えた宿に泊まろうとすれば、この値段ではまず無理でしょう。ただ、これはあくまで憶測ですが、従来の他の宿の傾向では、ある程度知名度が上がると値上げすることが多々ありますので、この宿もいずれは値上げすることも十分考えられますが・・・。
いわゆる伝統的な日本旅館や格式ある「超」高級旅館とは全く別のベクトルではありますが、これはこれで「アリ」だと強く感じました。女性誌風に仮に「お篭り系デザイナーズ旅館」というカテゴリーで括れば、この宿は確実に上位に来るでしょう。
デザイナーズ系の宿って、結構形から入ってそれだけで終わっちゃうって宿が多いように感じるんです、経験則では。確かにハコモノは立派で、内外装共に一流品を多用しオーナーのこだわりを随所から感じるものの、いざ実際に滞在してみると非常に使い勝手が悪かったり落ち着かなかったり・・・或いは、肝心の食事が美味しくなかったり接客に問題があったり。
しかし、少なくともこの宿はそういう不満や疑問は全く感じませんでした。自分自身もまたいずれ九州を訪れる機会があるかとは思いますが、再訪したい宿の一つとなりました。
宿好きの方はもちろん、家具好きの方にとっても、インゴ・マウラーやイサム・ノグチや柳宗理等の数々の照明・椅子だけでも見応え十分です。
そういえば、敷地内にはまだ何やら建設中の建物が幾つかありました。(自分が利用したのは)開業してまだ一年のこの宿、これはまだ「完成形」ではなくあくまでも始まりに過ぎないのでしょう。個人的に最も今後が楽しみな宿となりました。
母屋と離れの移動に使うカート
玄関にはバタフライスツールが
玄関を入るとすぐに窓の向こうには部屋露天が飛び込んできます
リビングは和室
和室には簡単な流しもあります
冷蔵庫内にはビール、酎ハイ、おつまみも。値段は外売りと同一価格と良心的
ベッドルーム
ベッドはキングサイズ
ベッド周りにはTV、コンポが完備
コンポはnakamichi製。CDも備え付けられています
TVはアクオス
洗面所
洗面台もお洒落です
アメニティ
トイレは蓋が自動開閉するタイプ。洗面所とトイレには間仕切りはありません
内風呂
部屋露天風呂
ベッドルームからもアプローチ可能
風呂のあるウッドデッキを囲むようにL字型に建物が配されています
夜は浴槽内照明が雰囲気を醸し出します
ウッドデッキ備え付けのデッキチェア(すわり心地抜群)
風呂からは見渡す限り森林が広がります
傾斜地の高台に位置するため、デッキ周りには転落防止ネットがついています
部屋の押入れ内には露天風呂用の湯沸し装置が隠されています
母屋のレセプトカウンター
母屋と食事処の間にある中庭
因みに昼間の中庭はこんな感じ
手前がロビー、奥は土産物コーナー
ロビーには様々な椅子と暖炉が配されます
(ウェグナー、ボーエ・モーエンセン、フィン・ユール、ハンセンといった
北欧系が多かったです。)
無料で頂けるコーヒーサーバー
コーヒーカップはコンラン
部屋の電話機はヤコブイェンセン。
間接照明を多用しており、夜も非常にムーディーです
夜の母屋はこんな感じに
食事は、母屋奥の食事処の個室で供されます。
食前酒と先付、前菜
先付:蜀黍豆腐
前菜:サーモン寿司、鰯万年煮、丸十レモン煮、合鴨ロース山葵和え
吸物:鯛吉野仕立て 福砂玉子、もみじ麩、貝割れ、木の芽
造里:車海老、平目、鯛
焼物:佐賀牛、みつせ鶏
→洋風にバルサミコソースで。非常にジューシーでした。
煮物:三色ソーメン 琴糸玉子、椎茸、陸蓮根
替鉢:米茄子グラタン焼 海老、蜀黍、パセリ、しめじ茸、銀杏
揚物:海老香草揚げ ほうれん草、バジル、大根卸、天つゆ
食事:磯釜飯、香の物三種
→ここまでで既にかなりの満腹にも関わらず、若布と蟹身の入ったさっぱりした
塩味の釜飯のため、すんなりお腹に入ってしまいました。
デザート:西瓜、梨、葡萄
翌日の朝食は、昨夜とはまた違う個室で供されます
テーブルには既に朝食がセッティングされています
玉子焼き、焼き魚、お浸し、サラダ等
それとは別に、湯豆腐が運ばれてきます
デザートはカスピ海ヨーグルト
・・・夕食はとにかくそのボリュームに驚かされました。また、和洋折衷でかなり創作が入っていますが、全体的に非常に美味しくいただけました。給仕のタイミングも◎で、温かいものは温かいうちに食す事が出来ました。なお、お酒の種類も豊富で、価格も良心的なもので、酒飲みには嬉しい限りです。
一方、朝食は夕食から比べると量は少ないながらも、野菜ジュースやヨーグルト等、体に配慮したメニューで、これまた美味しくいただけました。
食事処の雰囲気も良く、全体的に非常に満足度の高い食事でした。
風の森(佐賀・奥武雄温泉)
佐賀県武雄市西川登町小田志17275
Tel:0954-20-6060
1泊(2名のみ) @¥22050〜