あさば (静岡・修善寺)


修善寺にある日本を代表する名宿。伝統がありながら、そこにあぐらをかくことなく、モダニズムを積極的に取り入れる攻めの姿勢を併せ持ち、施設と料理、ホスピタリティ全てにおいて国内屈指のレベルを維持し続ける宿。


 


宿編  食事編  





あさば(宿編)


 修善寺は伊豆の中でも非常に落ち着いた雰囲気の温泉地であり、観光地化された表通りから一本中に入ると、静かな石畳の通りが続きます。

落ち着いた温泉地だけあり、柳生の庄や鬼の栖などの高級旅館も数多く点在します。


さて、このあさばですが、修善寺のメインストリートからやや奥に入った非常に静かなエリアにあります。近くには渡月荘金龍や柳生の庄などの有名旅館が軒を連ねます。


あさばといえば、300年以上続く日本を代表する名宿ですが、その地位と名声を維持し続けているのは、何も歴史があるからだけではありません。

これだけの伝統を持ちながら,インテリアにモダンなハイセンスのものを取り入れる姿勢、常に施設の改良を行う点、料理、ホスピタリティ、雰囲気、そして伝統にうらうちされた能舞台や門前などの施設、これら全てにおいてのものなのです。


 修善寺の狭い道をか中心地からかなり奥の方まで進むと、あの有名な門が突如として現れました。写真では何度となく見たはずのその門構えですが、やはり実物を目にすると改めて圧倒されます。

宿の前に車を停めると、従業員さんがすかさず数名やってきました。車は係の男性に預け、ギャレーサービスをお願いしました。

 宿の中に一歩足を踏み入れると、なんていうんでしょうか、空気が全然違うんです。良い意味での緊張感というか、ぴーんと空気が張りつめているんです。こればかりは言葉ではうまく説明出来ないので、是非とも実際に体感していただきたいのですが。従業員のかたの絶妙な距離感と調度品のセンス、伝統とモダニズムの融合したインテリア、全てがすばらしいの一言。


建物は年月が経っていますが、古くささなどは全く感じませんでした。日頃の掃除やメンテナンスと、調度品のセンス、恒常的な施設改修の賜物でしょうか。


さて、部屋に通されるとまずはお着きのお菓子をいただきながらゆっくりとチェックイン作業をします。最近やたらとロビーでお着きのお茶を時間をかけて出されて、なかなか部屋に入れない宿が多いですが、あさばはそんなことはありませんでした。

遠い道程をはるばるやってきて、なかなか部屋に入れてもらえないのは結構つらいものがありますので。


 今回利用した部屋は「巻絹」。1Fに位置し、10畳ほどの和室と広縁にトイレだけの非常にシンプルなお部屋。風呂がない部屋ですが、貸し切り風呂もすぐ近くですし、全く問題ありませんでした。部屋自体も昨今の旅館から考えると、決して広い部類には入りませんが、狭苦しさや不自由などは全くなく、むしろ部屋もただただ清潔簡素、品の良い生け花や掛け軸が適度な凛々しさと緊張感を与えてくれます。

 この部屋を選んだ最大の理由は、かの能舞台が正面に見えるからでしたが、まさしく部屋の窓の向こうには富岡八幡宮から移設したという能舞台と石舞台が堂々と鎮座しており、広縁の向こうの窓はさながら能舞台という最高の風景を切り取ったピクチャーウインドウといった風情。

 部屋数もさほどないこの宿ですが、2Fの部屋が広さ・内風呂付きなど料金的に高く、1Fの風呂なしの部屋がリーズナブルなようです。

 また、能舞台側に面していない部屋が数部屋あり、価格的にはそれらの部屋が最も安いようですが、あさばに来てこの能舞台を見ないというのはもったいない気がします。

 また、お風呂は共用の大浴場と露天風呂(時間による男女入れ替え制)の他に、貸し切り風呂が2つあります。部屋数はさほど多くない宿なので、風呂の設備としては十分でしょう。


 また、サロンではベルトイヤのダイヤモンドチェアが並ぶモダンな空間で、コーヒーやソフトドリンク等をセルフサービスで無料でいただけます。このサロンから見る池と能舞台、宿本館も非常にすばらしく、またおもむきがあります。ちなみに、夜はこちらのラウンジがバーになるようです。


 食事については食事編で詳細をご報告するとして、器、素材、見た目、量、給仕のタイミング等完璧でした。

良質の素材を使用しつつ、素材のみに依存することなく、過剰装飾や余計な手は加えない直球勝負の料理といった印象でした。煮物や汁物の出汁の取り方は、特に美味しかったです。

このあたり、やはりさすがといった感じですし、かなりの技術と手間隙をかけていると感じました。

 正統派懐石とはまた違うでしょうが、従来の旅館食ともまた全然違う水準にある見事な食事であることだけは間違いありません。


 池の鯉を眺めていたら、わざわざお忙しいのに鯉の餌を持ってきてくれて、横でいろいろと説明してくださったり、ただスノッブ一辺倒ではなく非常に好感の持てる接客姿勢でした。

 そして一番印象に残っているのが、チェックアウト後用意していただいた靴を履こうとしたら、なんと靴が適温に暖まっていたのです。4月とはいえ、まだ寒い時期だったので、これは非常に有り難かったです。


 伝統と評判にただ胡座をかくことなく、常に先取性をもちった宿、そんな印象をこの滞在で強く受けました。絶対評価として、この内容で一泊38000円は非常にCPが高いと強く感じました。

私のような小市民にとっておいそれと行ける訳ではありませんが、毎年1回は訪れたい宿でした。

何がある訳ではありませんが、とにかく心身ともに非常にリラックスでき、生活の活力をとても沢山もらうことができた滞在でした。

 この宿なら、絶景の景色もSPAも(SPAはあるのですが)ヒーリングミュージックもいりません。ただ普通に滞在するだけで、それら以上の効能を存分に享受できるのですから。


一言でこの宿を言い表してしまうと「引き算の美学」といったところでしょうか。

派手な装飾や凝った装飾は何一つありません。それでもこの安心感と安定感、心底から満ち足りてくる充足感はやはりただただ本物だけが放つオーラであり感性であるのでしょう。




 ちなみに、能舞台では年に数回野村萬斎等や新内流し等の公演が行われますが、昔から比べるとかなり公演回数(日数)を減らしたようです。


 というのも、公演日は宿泊客以外にも公演を見に来る客も多く、宿として精神的にも肉体的にも施設や設備的にもかなり本業である旅館業に影響があるそうです。あさばの本業は旅館業であり、能の公演をすることで、他の日に泊まりに来てくれるお客様に悪い影響があってはいけないとの考えが本質にあるようです。

 能で有名になろうとも浮かれることなく、自身の本業や目指すところが何であるかを常に見据えて宿を経営されている、そんな所もこの宿が長い間名声を得続けている理由の一つなのかもしれません。


この宿の宿泊料金は最低でも38000円かかります。これを高いと見るか安いと見るかでしょうが、私は個人的にはこの内容(施設、接客、料理、寛ぎなど総合的に見て)であれば、「安い」と感じました。宿泊すればなぜこの値段がかかるのか、その算定根拠は至る所から理解出来ると思います、私がそうであったように。それが漠然とした根拠であったとしても。




あさばの表門である破風の門。いやが上でも期待が高まります。



清掃が行き届いており非常に清潔。打ち水、盛り塩もされており

得もいえぬ凛々しさが漂います。



ロビー。伝統とモダニズムの融合がただただすばらしい。



調度品一つをとってもとてもセンスが良いです。



窓の向こうが池と能舞台になります。



お土産物コーナー。器やタオル、小物などとにかく一流品が並びます。

勿論、お値段も一流ですが・・・。



今回利用した巻絹の部屋。清潔にして簡素、よけいな装飾や調度品はなく

必要十分な部屋です。この宿は引き算の美学が徹底されています。



広縁の向こうにはかの能舞台が鎮座します。



広縁は4畳のスペース。その向こうに外のテラスが広がります。



こちらは能舞台の横に位置する石舞台。



部屋からは滝が見えます。聞こえてくるのは滝の音のみ。

ちなみにこの滝は人工だそうです。



テレビ。滞在中は全く利用しませんでしたが。



掛け軸。美術的価値は私にはわかりませんが、なんというか

可愛らしい掛け軸でした。



生け花。女将さんのセンスが伺えます。



部屋に用意されている寝間着。浴衣とパジャマがそろっています。



胸にはルレ・エ・シャトーのマークが。



冷蔵庫。瓶ビールで800円程度とまあ良心的な価格でした。



部屋備え付けのタオル。とにかくフカフカなんです。



アメニティも全てそろっています。



部屋のトイレ。古さは全く感じず、とにかく清潔。



お着きのお茶は蕎麦茶。うちの奥さんは蕎麦アレルギーがあると伝えると

すぐにほうじ茶にかえてくださいました。



まんじゅう。あさばの刻印が。

これがビックリするくらい美味しくて・・・私は甘いものが食べれないので

こうした和菓子は絶対食べないのですが、恐る恐る口にしてみたら

なんと美味しいことか・・・



部屋前の廊下にはトップライトから光が降り注ぎ、閉塞感が全く

ありません。手すり下に間接照明が仕込んであり、夜はモダンな雰囲気

を醸し出します。



ロビーの飾り。季節ごとに変わりますので時期をかえて訪れてみたいです。



池にいる鯉には餌やりもできます。



ロビーからサロンを望む。手前の船は能舞台に渡る際に使用するそうです。

池のある宿は多々ありますが、船(しかも味のある)の浮かぶ宿は

なかなか少ないのではないでしょうか?



サロン。ダイヤモンドチェアーが並びます。



コルビジェのダイニングテーブルもモダンな雰囲気作りに一役買ってます。



壁面収納には本があり、自由に読書できます。



サロンから能舞台をみやると宿の全体が見えます。このアングルが

とても気に入りました。これだけ歴史のある宿なので当然増築をしている

のでしょうが、増築特有の統一感のなさや建築物としての美観の損失

はいっさいなく、非常に美しいプロポーションの建物だと思いました。



夕景時はまたちがったおもむきがあります。



このサロンは夜はバーになります。お酒も結構な種類があるようです。



サロンの隣にはもう一部屋があります。

こちらはウッドの家具を多用しており、ダイヤモンドチェアがならぶ

部屋のモダンかつ無機的な雰囲気とは対照的です。この辺のバランスの

取り方は本当に上手だなとただただ感心。



パソコンや外国の利用者向けのガイドブックなどもありました。

Yチェアが並ぶこちらの部屋では、結納などの会合や大人数での利用

のため部屋が複数にまたがる人向けの食事の際にも利用されるようです。



2つある貸し切り風呂の一つ。貸し切り風呂としては十分な広さです。



もう一つの貸し切り風呂。



風呂にもこれでもかという位バスタオルやアメニティが用意されています。



こういう所でその宿の細やかさや姿勢が良く出ます。



源泉掛け流しとの看板。



貸し切り風呂や大浴場が位置する箇所の廊下には、ミネラルウォーター

の無料サービスが。



食事が終わると給仕さんが布団を敷きにきます。

この枕の使い方!これが実にいい塩梅なんです。

布団や枕、バスローブの等は全てこの宿のオリジナルで

研究に研究を重ねた特注品とのことです。



この敷き布団の厚み!!快眠が得られない訳がありません。

ちなみに、もっと価格帯の高い部屋だとさらに厚みがあるようです。

私はこれで十分ですが・・・



本来は池の突き出したデッキ部の手摺に、日が暮れるとキャンドルライトが

ともされるのですが、この日は兎に角風が強かったため全てすぐ消えて

しまっていました。これだけは残念でした。また雰囲気が違ったのでしょうが・・・。



月桂殿もライトアップされます。

夜のライトアップされた能舞台は、昼のそれとはまた違ってより

重厚感と荘厳さを醸し出しています。






あさば(静岡・修善寺)



静岡県田方郡修善寺町修善寺3450-1

0558-72-7000

in14:30 / out 11:30)


一泊(2名)@38000円から


HP:なし