小屋場 只只(山口・大津島)


 山口県の大津島にある1日1組限定の宿。その景観の素晴らしさと1日1組という贅沢さから最近とみに話題になり、予約困難の宿の一つとして知名度を上げている宿です。

 そのモダンスタイルなハコモノはもとより、景観(特に夕景)を一目見てみたいとの思いから、行ってまいりました。




宿編  食事編  





食事編


 この宿は食事の有無も選択可能なので素泊まりも出来ますが、是非とも食事も一緒にとられることをお勧めします。コースは見島牛コースやふぐコースなど3種類あり、@7000円~となっています。オーナーもおっしゃっていましたが、予算的にも一流の料理人を連れてくることは出来ない、それならばこの地の利を活かして素材で勝負し、素材の持ち味を殺さないシンプルな料理を心がけているとのことです。

 ということで、料理もさほど凝ったものは出ません。が、シンプルながらも食材のほとんどが島で採れたものという新鮮さを活かしものに仕上がっており、新たな発見や初めて食べるもの等もあり、非常に楽しい夕食をいただけました。


トマトの冷製スープ。トマトの甘みとスパイスの香ばしさ・スープの冷たさが食欲を掻き立てます。



「島の気まぐれ前菜」。近くの畑で採れたオクラとキュウリを味噌でいただきます。



「石と刺身」。島特産の御影石のプレートを冷やした器に、近海で水揚げされたたこ、いか、鯛、サザエ等が盛られます。



「トヨちゃんの野菜天婦羅」。これは海岸近くの砂地に生えるつる菜という野草で、島のいたるところに自生しています。



じゃがバター。シンプルながらもジャガイモの甘みとバターの濃厚なコクがお酒に良く合います。



「一本釣りの魚」。この日はメバルの煮付けでした。非常にいい味が出ています。



「瀬戸貝のバターソテー」。非常に濃厚な味わい。本当にシンプルな調理方法ながらも、食材の持ち味を存分に堪能でき、全く飽きがきません。



「ステーキ」。日本最古の牛にして和牛のルーツといわれている見島牛を使用しています。この見島牛は、瀬戸内海の見島にいる牛で、国の天然記念物にも指定されているほど希少価値の高い牛です。一時は30頭ほどにまで減ったものの、現在は保存会の元育成が進められ、頭数制限付きで販売されるようになりました。レアな焼き加減で供され、見事なまでのサシ具合を楽しめます。



シンプルかつ上品な味付けのお汁。



自然薯は麦飯にかけて麦トロご飯でいただきます。



沢庵もよく漬かっていて非常に美味でした。



玄米のアイス。



夜食に出たスコーン。非常に優しい味がしました。



こちらも夜食のおにぎりと沢庵。おにぎりはシンプルにゴマのみです。

 

 


翌日の朝食は・・・なんとテラスでいただきます。こんな素晴らしい景観を独り占めしながらの朝食、うーん、贅沢の一言です。また、後ろではレコードがかけられ、この贅沢なひと時を更に盛り上げてくれます。



明太子やきんぴら、だし巻き等。



干物は鯵の開き。



海草の入った味噌汁。中には素麺が入っています。薬味のゆずと焦がし油揚げの香りが非常にそそる一品。



白飯一つをとっても井戸水を使って釜で炊くという徹底振り。地のものに対するこだわりが感じられます。



おこげをお願いすれば、白飯の香ばしいおこげもいただけます。



卵も近隣の農家で朝貰ってきたもの。その卵黄のこんもり具合と艶々の黄色加減に興奮のあまり、割った後の写真をとることなく食べてしまいました・・・。



梅干



漬物。浅漬けで野菜の味がきちんとします。



海苔はご飯にかけてしょうゆと一緒にいだきます。



昆布の佃煮。これもご飯がすすみます。



食後にはコーヒーもいただけます。カップもとても凝っています。



食事の美味しさも勿論ですが、なんといってもこのロケーションが最高のおかずなのです。





エピローグ


 前述の通り、夕食時にはオーナーがたまたまいらして、中々興味深いお話を沢山聴くことが出来ました。宿が出来るまでのいきさつは前述の通り、元々宿を開業しようと思っていたわけではないが、いざ始めてみると、これまで建設業で言わば自分から突っ込んで顧客を獲得していたオーナーにとって、サービス業の「待ちの姿勢(自分から営業するのではなく、あくまでも客に選ばれるということ)」の難しさとそれ故の選ばれた時の喜びの大きさというのは非常に新鮮なものなんだそうです。その喜びがあるからこそ、更に上へという向上心を持ち続けられているといことを強く感じました。

 元々、同じ瀬戸内海に浮かぶ直島(ベネッセハウスがある島です)へ行った際に、いわゆる観光資源もさほどない直島に、年間ものすごい数の観光客が訪れる、その理由の最大要因はベネッセハウスやベネッセアートサイトといった一連の施設が引っ張っていっているといことに驚きと感銘を受け、この大津島でもそれが実現できないか試行錯誤をされているそうです。プロジェクトを立ち上げ、有識者や行政関係者と共に月1回の勉強会を1年間開き、その結果、規模・予算等の面で直島と同レベルのことをここ大津島で行うのは難しいという結論に至ったそうです。

 それでも若い人や都会の人に、この島が背負ってきた回天という悲惨な過去に触れ、改めて考える機会を持ってもらいたい、その結果過疎に悩まされ続けてきた大津島が活性化すればよいとの思いから、素泊まりが基本の貸民家「一間」をオープンさせたり、定期的にミュージシャンのライブを開いたりと、精力的に活動されています。

 このオーナーは数年前に一度大病を患い、生死の境を彷徨った経験をお持ちの方だからでしょうか。人によってはきれいごとととられてしまうかもしれないこのオーナーの考え、僕にはその目つきやしぐさを実際に見ながら伺ったこれらのお話、とても含蓄がありただのきれいごととは感じませんでした。

 また、折角の夕景がきれいな食事時に、しかも1日1組限定の宿でオーナーが突然来て話始めることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。人によっては邪魔するなとも思われるでしょう。僕も普段なら確実にそう思うタイプの人間なんです。でも、なぜかこのオーナーと話していると全くそんなこと微塵にも感じず、本当に時間が経つのを忘れて話し込んでしまいました。このオーナーは本当に人が好きなんだと思うんです。そして、人を引き付ける何かを持っているんです。実際、宿で使っている器を作った陶芸家、装飾品の芸術家、建築家、食材を提供してくれる農家や漁師、そしてスタッフの方々・・・本当に多くの人を巻き込んでこの宿は成り立っていますが、これらもこのオーナーに何かを感じて引き付けられて集まってきた人たちに他なりません。

 オーナー自身宿の経営の難しさと奥深さ、反響の大きさを再認識されたそうで、各地の宿へも積極的に足を運ばれているそうです。そして言われたことが、観光地や目的地ではなく宿先にありきの旅行をする人がこんなにいるとは思わなかったとのことです。勿論、僕自身もそういう人間の一人ですが。それだけ魅力を持った宿ってことだと思います。何か突出した魅力や引き付けるものがあれば、ちょっとやそっとの障害(距離であったり交通費であったり様々だとは思いますが)があっても本当に好きな人は来ると思うんです、個人的には。

 そういえば、宿自体がちょっとマスコミに露出し過ぎたので、今後は控えたいなんてこともおっしゃられていました。人気宿の中には、マスコミを上手に利用されている宿も多くありますが、逆にマスコミへの露出を最小限に抑えていても予約困難の人気宿なんていうのも沢山あります。その意味では、これからこの宿の真価が本当に問われるのかもしれません。



こちらが新たにオープンした素泊まりが基本の貸別荘「一間」



宿の「護送車」こと黒塗りのトヨタ・クイックデリバリー



名前の通りこの一間のみ。非常にシンプルです。



素泊まり基本ということで、キッチン設備は只只より充実しています。



お風呂も普通の家庭用。



庭先にはこんなアンティークな自転車がありました。



 また、宿自体についてですが、モダンな建物とハイセンスなインテリアに反して、スタッフの方も島自体の空気も本当にのんびりとしており、温かみがあります。僕はこのギャップ、とても好きです。ただ、それ故至らない点も沢山あるんです。いわゆる高級旅館のような至れり尽くせりの完璧なサービスを期待していると物足りなさが残るかもしれません。

 しかし不思議と、普段なら気になるようなことも、全く気にならなかったんです。それはおそらく、良い意味でこの島のの持つ雰囲気・空気や時間の流れに影響を受けたからかもしれません。きっとこの島に一歩足を踏み入れた瞬間から「大津島時間」が始まっているんだと思います。

 道行く島民とわけ隔てなく挨拶を交わしたり、オーナーが部屋に来て話し込んだり、オーナーの奥様にお会いできたり、東京から来ている芸術家に完成したばかりの作品を見せていただいたり、スタッフの方から帰りしなにクワガタを貰ったり・・・そういう人間臭さとふれあいが本当に心地良かったんです。ハード・ソフトという宿そのものの持つ魅力は勿論、それだけではなくその景観、人とのふれあいやスタッフの方たちの気持ちの良い笑顔、オーナーの崇高かつ強固な意志、島に流れる空気などを全てひっくるめて再訪を望まずにはいられない宿、そんは表現がぴったり来る宿でした。




小屋場 只只



山口県周南市大津島1111

0834-85-2800

in 16:00~/out ~11:00

1泊2食(2名) @36000円~


小屋場 只只 http://www.koyaba.jp/